(2) 研究における成功と失敗のお話
大学で学生君たちと実験・研究をしていると,よく,「失敗しました!」という言葉を耳にします.しかも,恥ずかしそうにと言いますか,申し訳なさそうにです.彼らの言う「失敗」ってどういう意味でしょうか?答えは簡単です.実験を行う前に,「これをこんなやり方でやると,こんなものができて,こういう結果になるだろう」と机上の空論を巡らせ,その通りになったかどうかということだけなんです.なので,思い描いていた通りにならない場合を「失敗」,思い通りになったら「成功」という言葉を使っているだけなんです.「成功」「失敗」ってそんなことを意味していたのですが,これは完全に大学入試の弊害なのです.与えられた問題ができたら「成功」,できなければ「失敗」なのですが,大学の実験・研究はそんなものではないのです.できるはずのものができなくても,怒られることなんてないのです.解けなければならない数学の問題が解けないという入試問題とは全く違うのです.できるはずのものができても,「いいね」と言われるかもしれませんが,「それは素晴らしい研究だ!」なんて誰も言わないのです.大学の実験・研究は,「机上の空論ではできるはず(「成功するはず」)だが,できるかできないかは,やってみないとわからない」のです.頭で考えた通りのことができなくても,なぜできないかやなぜ違うものができたかをきちんと考えることが重要なのです.それが,「失敗は成功の基!」と昔からよく言われることだと思います.できないから「失敗」と言って,その実験結果を捨ててしまったら,「失敗」から得られることなど何もなくなってしまいます.この「失敗」から新しいものが作り出されるのに,もったいない.
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